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  2019/6/17    TITLE : 責任ある投資とESG課題
  年金ファンドの運営の本質は、究極のリスク管理者であると同時にタイムパトローラー(時間巡視人)である事は既に述べて来た所である。割引率と期待収益率の意味を有する予定利率を通して、中長期的な財政運営と資産運用を適切なリスク管理の下、執り行う事が年金ファンドの運営管理者に求められる。

  このような年金ファンド運営の監視する視点にパラダイムシフトが生じて来た事を年金運営管理者は近年強く認識している。それは、積立政策の基本である投資の前提には「持続性有る社会の基盤」が必要で有るとの共通認識である。つまり、投資判断に持続性可能な社会の発展を求めると言う「責任ある投資」の理念が年金ファンド(アセット・ホールダー)に共有されて来たと言う事である。この背景には国連投資原則(PRI)の理念が深く認識されて来た事が有ると考えられる。

  元来、年金ファンドの運営は持続性有る社会との親和性が高いものと次の4つの点から認識され、PRIの理念も受け入れ易いものであろう。① 経済活動の基盤の安定性は年金の安定性・持続性に寄与する。 ② 年金経営ガバナンス及びワーカーズキャピタルの性格はお互い共生される理念である。 ③ グローバルな分散投資は、経済全体の利益を享受し、E(環境)、S(社会)、G(統治)の安定性を、年金ファンドはユニバーサル・オーナーとの性格上それを希求している。 ④ 「見えざる革命」の進展により株主と従業員が一体化している。

   加えて、近年、機関投資家(年金ファンドも含む)に対して中長期の視点からの投資をコーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードから要請されてきており、企業価値を高めるエンゲージメント(目的ある対話)も強く求められている。かかる背景には、企業と社会の持続性との価値分担共有(CSV)の認識が社会的に敷衍して来た事が挙げられよう。その際のESG課題への企業の考慮は、企業価値評価に影響すると同時にダウンサイドリスクへの制御に貢献するとの認識が高まってきた事によると思われる。従来の財務情報評価に、ESGに代表される非財務情報を加味する事により価値創造の評価投資が招来されていると考えられる。

  以上の状況を踏まえて、年金ファンドの責任ある投資の具体的な施策としてのESG投資を踏まえた今後の投資の方向性を考えてみよう。

  1つにはESGが企業の中長期価値に影響する可能性があると考えるに充分な背景がある以上、考慮しない事がリスク制御上問題であり、ESG課題を考慮する事こそ受託者責任を全うする事となるという考え方である。この考え方は英国大学退職年金制度:USSの考え方に近いものと思われ、受託者責任の考え方に反するものでは無いと受け止める事が出来よう。

  2つには中長期投資戦略の実現に、ESGを考慮したインテグレーション投資が資産運用会社に置いてメインストリーム化してきている事実である

  この2点から見れば、年金ファンドがESG要素を取り入れた中長期投資の施策に積極的に対応する流れはこれからも主流となるものと思われる。
  但し、ESG課題に年金ファンドが積極的に取り組むには、企業母体のESG課題への問題意識とリスク・マネジメント上不可欠な要素であることを、母体に強く認識させる必要がある事は否めない現実であろう。

  ついては、その現実を、具現化させるには、年金ファンドの運用基本方針に「持続性ある社会を考慮する投資を目指す」と言う文言を追加する等して、先ずはPRI理念である責任投資原則に署名する事が重要ではないかと考えている。それを踏まえて、中長期的な投資価値を高める狙いのスチュワードシップコードへの署名等が考えられるのではないかと思われる。年金ファンドが拙速にスチュワードシップコードに署名する前に、責任投資原則への本質的な理解が必要であると考えている。
  以上

  (参考)国連がサポートする責任投資原則(PRI): 2006年4月策定
  ①私たちはESG問題を投資分析と意思決定のプロセスに組み込む
  ②私たちは行動する株主となり、株主としての方針と実践にESG問題を組み込む
  ③私たちは投資先企業がESG問題に関して適切な情報開示を求める
  ④私たちは投資業界がこの原則を受け入れ、実践するように働きかける
  ⑤私たちはこの原則の実施における効果が高まるように共に行動する
  ⑥私たちはこの原則の実施に関する活動状況と進展について情報公開する
  【責任投資原則のホームページより】

以上




代表取締役社長 飛田 公治
<執筆者>
代表 飛田 公治

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