Column l コラム
2015/2/3
TITLE : 専門職としての誠実性とは何か?
「ソフト・コンサルティング」というビジネス・コンサルティングの主張は、現在では世界標準の考え方として普及している。意思決定プロセスの明瞭化にコンサルタントが如何に寄与するかがビジネスの基本であると言うものである。つまりリスクテイクを含めて、お客様に「自分の意思決定は正しかった」と最終的に理解して頂く事がコンサルティング・ビジネスの根幹と言えよう。
かかる考え方は、資産運用会社における「専門職としての誠実性」を担うスチュワード・シップという理念に共通の視点である。
「お客様の意見をよく聞いて、自分なりに今一度吟味し、再提案して、問題点を整理し解決の糸口を見つけて行く」と言う地道なコミュニケーション行為こそが、プロフェショナルとしての意思決定プロセス明瞭化の作業である。
しかし、人間は誰しも逆鱗に類似したものを当然の事ながら有しているので、ここに触れたのでは、お客様とのコミュニケーション行為は成り立たない。
「龍と言う動物は、馴らせば人が乗れるほどおとなしい。だが喉の下に直径一尺程の鱗が逆さに生えていて、これに触れれば必ず人を噛み殺す。」お客様を始めとして人間誰しもこの逆鱗があることから、それに触れないように話し、納得の道を見つけることが説得の極意であると韓非子は言う。
それでは韓非子の主張する説得の技術とその極意は如何なるものであろうか。「韓非子」の訳者である守屋洋氏はその著書【強者の管理学・韓非子:PHP研究所】の中で「韓非子」の述べた説得の極意を次のように述べている。
① 相手の心を読み取る事
② 相手の信頼をかちうる事
③ 相手の気持ちに逆らわない事
④ 自分の立場や状況を考える事
⑤ 相手の急所に触れない事
以上の5つを整理して考えてみると、ビジネスを進めて行く際のコミュニケーション行為を行う上では、③相手の気持ちに逆らわない事と⑤相手の急所に触れない事と言う点は、取扱いが一番難しいものと思われる。
相手の急所に触れない事は、前述した逆鱗に触れないという意味では理解出来るものであろうし、丁寧なコミュニケーションをとる事によって物事を進めていく事もまた可能と思われる。これに対して、相手の気持ちに逆らわない事という点は、皮相な見方をすれば、単なる大勢順応主義であるとの批判を受けよう。
しかしながら、見方を変えると、相手の意向を充分に汲んで当方の考え方を主張し、相手の気持ちに逆らわないで物を言って智慧と弁舌の限りを尽くすことができれば、相手の警戒を解いて懐に飛び込み、充分に言い分を尽くす事が可能であろう。当事者の水準に合わせて説得し、それが採用されて世の中の役に立つと言うことであれば、よしんば大勢順応であったとしても、少しも恥じるべきことではないと考えるが皆様は如何であろうか。
先ず、相手の気持ちに逆らわない事で信頼をかち取る事が、説得の基盤となっているものと考えられる。信頼されなければ、何を言っても聞き入れる道理は無いという点は、専門職業(プロフェショナル)に従事するものが評価される際に誠実性(インテグリティ)が問われる事と表裏一体の関係にあるものと考えられる。
特に健全な運用会社の属性については、プロフェショナルな誠実性・倫理性(インテグリティ)と投資技術としての適格性(テクニカル・コンピテンス)が、最近の運用事件を鑑みると今以上に強く求められよう。
投資技術的な適格性を分解してみれば、(1)組織的な管理運用能力(マネジメント能力)、(2)第3者機関による価格照合や売買執行システム等へのオペレーション能力、(3)投資プロセスの堅固力、(4)投資戦略の開発能力、(5)統合的なリスク管理統制力が問われる事になろう。
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