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  2015/2/16    TITLE : コミュニケーション行為の重要性
  昨今の社会問題である、陰湿な「ヘイト・スピーチ」、「いじめやストーカー行為による殺人」、「家庭内遺棄」等を少し考えてみよう。
  「人と人とに間があって人間と言え、二人がそろえば社会、一人一人が支えあって人と言う文字」という素朴な規範が忘れさられている時代に我々は直面していると感じられる。我々が生きる世界において何が不足していると考えるべきなのだろうか?

  若手ビジネスマンを見回すと、コミュニケーションをとるという行為とその経験が仮想空間以外の現実社会におけるビジネス分野や教育分野ではかなり不足しているのではないかと驚かされる場面にしばしば遭遇する。
  日本の高等教育現場での対応と欧米の高等教育現場におけるお互いのコミュニケーションを取らせる為にリベラルな議論をさせるという姿勢の違いには驚かされる。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の白熱教室を見れば、いかに討議される内容とその場のコミュニケーション取り方が教育現場において充実しているのかが理解出来る。

  コミュニケーションを取ろうとする場合に生じる相互のギャップを埋めるための解決への示唆がドイツ現代哲学にある。
  ドイツのフランクフルト学派の高名な哲学者であるハーバーマス(1929~)は、コミュニケーションを取るにあたっての大前提として、すべての発言は以下の3種類の「妥当要求」を掲げてこそ発言の意味があり、それを認めることによって始めて実践的に討議し解決する資格があると指摘している。

  ① 自分は真理を表明している。
  ② 自分は正しい規範に従っている。
  ③ 自分は意図通りの事を誠実に述べている。

  グローバルに流動化した情報を即時に取得できるという現代社会に我々は生きており、世界が唯一不変なものであるという前近代的な哲学的な前提にはもはや立てないわけである。かかる現代的な認識のもとにハーバーマスは、世界を①客観的世界、②社会的世界、③個人の内部世界という3種類に整理している。

  ① 客観的世界に対する妥当要求は真理性である。人は自分の言っている事が客観的事実に基づいている、その意味で「真理」であると主張する。
  ② 社会的世界に対応する妥当要求は正当性である。人は自分の言っている事が社会的規範に照らして「正しい」と主張する。
  ③ 個人の内部世界に対応する妥当要求は誠実性である。人は自分の言っている事が本当に自分の気持ちや意図に「忠実」だと主張するのである。

【現代思想の冒険者達「ハーバーマス」:中岡成文・講談社】


  ハーバーマスの言うコミュニケーション行為には2種類あるが、我々が対象とするものは、文化的な意味や価値の再生産を勤めとするコミュニケーション合理性の領域である。これは生活世界において人々が目標等を共有する必要のある「社会統合」を目指すものである。
  従って、コミュニケーション行為のもとでは、戦略行為のような力づくではない形で社会統合を目指すために、前述の「妥当要求」を掲げた上で、その承認を相手に求めるという納得づく(了解)の手法を採用するのである。つまり「真理・正義・誠実」と言う基準での相手方への「妥当要求」とその「了解」としてコミュニケーション行為は理解され整理される。

  また、このようなコミュニケーション行為は、社会生活にとって、以下のような不可欠な役割を果たすものと整理されている。

  ① コミュニケーション行為は、了解(意思疎通)を可能にして、文化的伝統を受け継いだり更新したりする。
  ② コミュニケーション行為は、言葉によって人々の社会的連帯を作り出す。
  ③ コミュニケーション行為は、個々の人間が社会の中で成長し、自分なりの人格同一性を達成するため、即ち個人の「社会化」のために重要な役割を有する。

  ハーバーマスの哲学は、我々が行う資産運用ビジネスやコンサルティング・ビジネスを遂行するためにも極めて示唆に富んだ主張と受け止められる。
  顧客第一主義の中で、受託者責任や説明責任をヘッジする役割を多かれ少なかれ担う我々の仕事にとっては、「真理性」、「正当性」、「誠実性」という妥当要求を掲げてこそお客様の了解つまり納得が得られている訳である。
  社会的連帯と個人の社会化こそ、ビジネス分野にとっても現代日本の殺伐とした心象風景においても、真摯に向かい合うべき課題と言えよう。コミュニケーション行為こそ、古代から現代に至るまで一貫した人間社会の原風景であると強く主張致したい。





代表取締役社長 飛田 公治
<執筆者>
代表 飛田 公治

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