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  2016/2/1    TITLE : 年金資産運用の本質と留意点(その1)
  直近における確定給付型(DB)企業年金の財政状況は稀に見る資産改善の結果、制度上の剰余金(責任準備金を上回る資産)を有し、コントリビューション・ホリディ(掛金休止)の年金制度も在ると認識される。
  その原因としては大きく二つの要因が考えられる。一つは、国際会計基準の影響を受けて上場企業は自らのバランス・シートの改善に取り組み、年金制度の持つ負債認識の適正化に努めた事。つまり、この数年の年金制度上の予定利率の見直し(従来の5.5%を離れて2%前後へ変更)によって、掛金の上昇による財政改善に努めた事。二つ目の要因は、運用ポートフォリオの安定性を指向するダウンサイドリスクコントロールに努めた過程で、アベノミクス効果による株価の上昇を起因とした資産額の時価増殖が大きくあった事である。かかる年金財政状況の改善を鑑みながら、年金資産運用の本質を考えてみよう。

  年金ファンド(アセット・ホルダー)の資産運用は、根幹的に受益者たる加入者及び受給者の期待・既得利益の保護という側面が一義的に重要である。年金ファンドは受益者から年金資産に対する安全性、効率性の管理負託がされているものと考えられる。それ故、年金管理者は「受託者責任」を負うのである。受託者責任は、「忠実義務(利益専念義務)」、「専門家としての善管注意義務(プルーデント・エキスパート・ルール)」、「分散投資義務」の三つの要件からなる。年金運用に従事する者にとっては真っ先に共有されねばならない理念であり遵守すべき法的義務である。

  次に、年金ファンドに関連するプレイヤーとの関係を考えてみれば、受益者、年金管理者、運用機関、証券市場等とのそれぞれの間は、全て頼み・頼まれるという委託の関係がある。つまり、年金資産運用の本質は「代理行為の連鎖(エージェンシーの関係)」と言えよう。このような「エージェンシーの関係」を考えれば、委託者と受託者との関係にはいわゆる「情報の非対称性」と「利害の不一致」が生ずる事を念頭に置かなければならない。従って、例えば運用機関の忠実義務を担保するには、適正な報酬によるインセンティブの確保と伴に、コンサルタントを活用する等の監視コストを講じた監視(モニタリング)が必要とされる。つまり統一エージェンシー・コストは0にはならない訳で飴と鞭の使い方が重要である。かかる関係を考察すれば、昨今の話題であるスチュワード・シップ責任は誠実性の観点から運用機関は至極当然に遵守せねばならない任意の規範と言えよう。あえて苦言を呈すれば、スチュワード・シップ責任を支える理念の本質を運用機関は充分に説明できるのであろうか?
  最近の運用機関の説明を聞けば、あまりに形式的、外形的なコード順守といった事で事が足るとされているように感じる。また、同時にモニタリングを行う責任ある立場の人間も、どこまでスチュワード・シップ責任を支える背後の考え方について説明出来るのか疑問を覚える。

  ところで、年金管理者は将来の負債構造管理と資産運用管理を執り行う総合管理者と表現されよう。彼らは年金ALM(資産・負債管理)を通して、将来キャッシュフロー管理の為に運用資産構築を分散投資の観点から、その具現化を担う者と考えられる。その本質を論じれば、年金管理者はリスク管理者(リスク・マネージャー)であり、単なるリターンの極大化追求者(リターン・マネージャー)では無い。また、将来給付の管理者である点では、タイム・パトローラー(時間管理者)でもある。その際の管理武器は割引率と期待収益率の2つからなる予定利率である。従前においては予定利率が5.5%に固定されていたことがまさに大きな問題であった。

  このリスク・マネージャーとタイム・パトローラーという総合管理の理念は、端的に「RATE」で表現される。つまり、「Rはリスク許容度、Aは資産選択、Tは投資期間(タイム・ホライズン)Eは期待収益率」である。年金管理者はRATE(予定利率)の柔軟な使い方に、4つの視点を加味した資産運用戦略の構築こそが重要な業務と認識されるのである。一般的に企業年金ファンドの負債金利感応度は12年程度であろうと思われ、負債構造は千差万別であるものの総じて中長期の運用者と考えられている。このような観点からステレオタイプには年金ファンド(アセット・ホルダー)は中長期投資者であると言われるが、コンサルタントが運用ストラクチャー構築を考える際には、受託者責任(利益専念義務)の観点からも中長期及び短期の区分の必要は無く、システム・ダイナミックスの視点から言えばお互いが入れ子の構造で運営されるものだと説明されよう。

続く




代表取締役社長 飛田 公治
<執筆者>
代表 飛田 公治

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