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  2016/2/4    TITLE : 年金資産運用の本質と留意点(その2)
  年金管理者として、投資という行為をどのように考えて行くべきなのだろうか最近の動きを交えて考えてみよう。年金管理者はリスク管理者(リスクマネージャー)かつ時間管理者(タイムパトローラー)であるという基本的な性格を有する事は、前のコラムで触れた所である。
  その管理者が運用機関を監視する視点にパラダイムシフトが現在起きていると認識している。それは「持続性ある社会の基盤は投資の前提である」との認識がグローバルな年金ファンドの基本的な前提となってきた事に起因しよう。
  投資行為は未来創造行為であり、「投資判断に持続可能な社会の発展性を求める」という「責任ある投資」が必要であるという理念が広くアセットホルダー(年金ファンド等)に共有され始めている。この理念こそ、国連投資原則(PRI)を支えるバックボーンであると考えている。
  元来、年金ファンドは「健全な社会基盤の安定性」に親和性が高いという事に、誰をも反対し得ない所であろう。リスク管理上の視点及び安定的な年金給付の為の時間管理概念からも、経済活動の基盤を守る事が年金の安定性・持続性の維持に役立つ点は論を待たない。

  ところで、年金ファンドを持続させるためのガバナンス(統治)上の責任は一義的には企業そのものが負うものとされようが、年金制度が重要な労働条件として労使間で協定される性格を考えれば、ワーカーズ・キャピタルという性格を無視出来ない。加えて、受益者(加入者、年金受給者)は労働者であり、また実生活者である視点も考慮する必要があろう。同時に、「見えざる革命」が進展した現在では、企業を取り囲む重要なステークホルダーである株主と従業員(労働者)は一体化している現実から目をそらす事は出来ない。
  この角度から見れば、企業の持続性を原点とする年金ガバナンスとワーカーズ・キャピタルという年金ファンドが持つ性格は、責任ある投資の有する「持続性ある社会の構築を求めるという価値観」を共有し易いと思われる。

  また、分散投資が徹底される年金ファンドはグローバルな運用が進展し、特に大型ファンド(公的、私的を問わず)は資本市場を広範にカバーする機関投資家という性格を有する。通常、かかる投資者はユニバーサル・オーナーと定義されている。彼らの投資利益(リターン)は経済全体からの利益の影響を強く受けるからである。つまり、市場全体に広範囲に投資する事から、環境(E)、社会(S)の安定性が特に重要となるのである。見方を変えれば、ESG(環境、社会、ガバナンス)課題への対応により、「リスクの適切な管理、新しい市場開拓、規制動向の把握、風評・ブランド・企業イメージ等」への影響を常に留意して企業経営を行う事が、グローバル化した世界での高い企業評価に繋がるという事であろう。かかる企業への目的ある対話を通した投資が年金ファンドにとって効果的な投資収益を呼び込む事になると認識されて来ているのである。

  このESG課題への取り組みが国連投資原則上重要なテーマとされている。また、様々な実証研究からも「少なくともESG課題を投資判断に組み込む事がその投資判断にマイナスだという証拠はない」と控えめではあるが報告されている。このような、認識の変化を受けて、米国のERISAは2015年10月にそのガイダンスの変更を行い「リスク・リターンプロファイル上の問題が無ければ年金資産運用にESG投資を活用することは受託者責任上の問題は無い」と明瞭に宣言をした所である。また、英国の大学年金(USS)はその投資判断の中で「ESGが企業の中長期価値に影響する可能性があると考えるに充分な背景がある以上、考慮しない事がリスク制御上問題であり、ESG課題を考慮する事こそ受託者責任を全うする事となる」とポジティブに言明している。

  従来の公的年金中心のESG課題への取り組みが、国際分散投資を行っている私的年金にも広がって行くものと考えられる。今まで、欧州に比較し及び腰であった米国の企業年金の分野に変化が予測され、本邦においてもこの動きは無視出来ないものと思われる。 このような潮流変化を踏まえて、中長期投資の戦略実践にESG課題をその判断上の中核的要素をして取り込む事が運用機関によって普通に行われ始めている。いわゆる非財務情報(ESG情報)と財務情報との統合(インテグレーション)投資として敷衍して来ている。ESG投資が特殊なファンド投資ではなく年金ファンドの一般的な運用形態として取り込まれて来ているのである。本邦では、企業年金が剰余体質になっている現在こそ中長期投資の戦略原点を見直す事が容易であり、資産リバランスを行って中長期価値の向上の為にESGインテグレーション投資を真剣に企業母体と考えるタイミングと思われる。今後運用基本方針に「持続性ある社会を考慮」する等の規定盛り込みも望まれよう。

以上




代表取締役社長 飛田 公治
<執筆者>
代表 飛田 公治

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