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  2019/1/17    TITLE : 年金資産運用管理のプロセス
  確定給付企業年金(DB)における年金政策は、3つの政策から構築されている。 1つは「給付政策」であり、将来の年金支給時期における給付額の決定である。 2つには当該給付を賄うための「積立政策」であり、通常の将来に向けた「正常掛金」と積み立て不足部分(過去勤務債務相当)を長期にわたって償却をする「償却掛金」(特別掛金)によって構成される。単年度における給付額と積立額相当(正常費用+過去勤務債務償却費用)の差額が主にキャッシュフローの大宗を占める。 3つ目は、積み立てられた年金資産を投資運用によって、収益をどのように増殖して行くかを考える「投資政策」である。
  この「給付政策」「積立政策」「投資政策」をいかにバランス良く運営して行くかが年金資産運用管理者の重要な責務である。但し、一旦決定した給付水準、給付期間等による給付額相当(換言すれば総給付現価相当額)を減額する事は、相応の理由と手続きが必要となる。また、制度の見直し等も含めて財政再計算の時期等に給付政策が論じられる事が多いものと思われる。要するに、「給付政策」を単年度に頻繁に変更する事は考えにくいものである。また、将来に年金制度が成熟するとは、「単年度給付額」と「積立掛金+投資収益」が均衡する定常状態に達するタイミングを言う。 従って、年金資産運用管理者の単年度における重要な政策管理事項は、「積立政策」と「投資政策」という2つの政策のマネジメントである。

  特に「投資政策」の根幹を担う理念、つまりポートフォリオ決定を行ってゆくキーワードは「RATE」で表される旨、何度か述べて来た。 RATEという予定利率の要素となる「割引率」と「期待収益率」の2つの武器を有効に活用する事で、年金資産運用としてターゲットとするリターンとリスク平面を明瞭に理解する事が可能となる。次にRというリスク許容度の把握、Aと言う資産選択、Tと言う投資期間(タイムホライズン)設定、Eの期待収益率の理解へとつながって行くことで、年金資産運用管理者として留意すべきポイントが把握され、長期の戦略的資産配分計画のアウトラインが決められて来るのである。年金資産運用に置ける運用成果をもたらす一番重要な要素は、長期のポートフォリオ設定と実践的なアセットアロケーションであり、これらが運用成果の大宗を説明する事となる。

  さて、当該年金資産運用を始めるにあたって、当該意思決定プロセスの有り方を充分理解して置く事が必要である。 通常、年金コンサルタントや年金資産運用管理者は「計画(PLAN)」「実行(DO)」「見直し(REViEW」と言うPDRプロセスを考える事となるが、ここでは今少し細かいチェックプロセスを案内して置きたい。
  第1段階は「分析」により、従来の運用計画、手法の問題点の洗い出しのプロセスである。
  第2段階は「最適化」と言う、効率的なアセットアローケ-ションの発掘作業である。
  第3段階は「合意文書化」と言う、意思決定プロセスの明瞭化作業(フォーマライズする事)であり、この作業により「受託者責任」の中核的な理念である「プロセス責任」を担保する事になる。
  第4段階は「実行」段階である。分析、最適化、により構築された運用ストラクチャーを果敢実行して行く事になる。
  第5段階の最終は「監視と見直し」である。モニターし、それを見直しして行く作業を通して、第1段階の「分析」に繋がるというサイクルプロセスとなる。

  かかる、5段階プロセスは太古の中国思想にも明瞭に見受けられる。中国武経七書の一つである「呉子」の「論将編」の中に「理」「備」「果」「戒」「約」の5段階の思考プロセスが有る。春秋・戦国を通し活用された兵法書は、死ぬか生きるかと言う国家の存亡を掛けた厳しい現実の中で試された。一軍を率いる将軍に期待された思考プロセスである。 つまり、理論「理」を考え準備「備」しそれを決断実行「果」し、その結果を反省「戒」し、弱点を要約「約」し再度見直すという精緻な思考プロセスは、現代ビジネス管理に繋がる厳しい管理思考と言えよう。最も重要な事は、年金資産運用も含めて、失敗を反省するだけではなく、そこから原因、弱点を要約して再度理論構築し直すと言う事である。

以上




代表取締役社長 飛田 公治
<執筆者>
代表 飛田 公治

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